みんなの輪「花片(いちおう小説)」
●作者:
吉野 文博
●作品コメント:
ド単純実存主義者がいろんな思想に八つ当たりしている作品です。
短い小説なので、比喩、暗喩、象徴等はほとんど使っておりません。
唯一、シュル・レアリズムの手法を使いましたが夢の話なので効果が出ていません(笑)
えっ、ド単純実存主義者なのになんでシュル・レアリズムなのかって?
まあ、単なる気まぐれです。深く追求なさらないで(笑)
ある夢である。
ナンブ製のピストルから飛び出してくる弾丸が鈍く空中を進む。
私達は笑する。我々の銃、資本の帝国への反撃の象徴、AK-47の空気を切り裂く銃弾とはくらべものにはならない。ものが違うのだよ、ポリス・メン。
片道四車線の道路、奴らは白と黒に配色された車を並べて楯にし、我々の後方から仕掛けてきた。私は皆に指示し、トラック二台を止めさせ、卑怯なる敵を迎え撃った。
奴らの蚊のような弾丸は我々に擦過しもしない。我々の銃弾は引き金を引けばポリスに命中する。私も狙いをつける。つけた刹那、もう警官の眉間に穴があく。しかしおかしい。ロジャーの銃弾も、ジョンのも、ブライアンのも、確実に敵を仕留めているのに、ポリスの数は減りもしない。むしろ徐々に増えている。
もう相手にするのにも飽きた。このままトラックで離れても、警官はしつこく付いてくるだろう。
「ヘリを呼べ、ハインドを」
私は仲間に大声で言う。
OK! 返事はすぐ返る。3分で来るそうです。無線連絡したスパイクだ。
ハインドにはナンブではかすり傷もつけられまい。ヘリが来るまで我々はゾンビ・ゲームをするようにポリスを撃つ。権力の手下はいつの時もゾンビである。
程なくハインドは到着した。
で、UFOのことだ。どこから来るのか? 最近は諸説ふんぷんである。宇宙の別の星というのはあり得ない。アインシュタインの物理学では光速よりはやいものは存在しない。異次元から来ると言われても、まず異次元の詳しい説明をしろよと言いたくなる。地底? ありえんだろう。まともな学者の考察を知りたい。ユングなどオカルトで話にならない。やはり小松松太郎だな。まだ未読だが、その科学的考察は高評価だ。ぜひ読もう。小松松太郎著「空飛ぶ円盤の純粋理性批判」(日本理科学出版刊)を。
スパイクの運転するHONDAの車の後部座席には私が座り、その隣には少女がいる。高校生ぐらいか。身なりはTシャツにショートパンツと至って普通である。だが、我々が装着させたものは違う。
遠隔操作できるプラスチック爆弾を腹部に巻き付けている。それ以外の拘束具などは何も付けていない。する必要などない。少女は力なく座っているのだから。
冷や汗を流し、くぐもるように泣いている。
私は起爆スイッチを右手に持っている。セーフティーを外し、ボタンを押せば、少女は死ぬ。
少女よ、どんな気分だ。
絶望しているだろう。もう君には君の人生の終わりを味わうことしか出来ない。郊外のアウトレットモールの人混みの中で爆死してもらう。外を見ても和めないだろう。空き地があったり、倉庫があったり、人々が働く無駄な箱が建ててあったり、つまらないだろう。
冷房の効いた車内で、汗と涙を流しているのが死の儀式の直前にはふさわしい。
君は四方を壁に囲まれているだろう。どうしても越えられない壁に。すべての人間が最後に直面するものだ。壁を叩いては、壁をよじ登ろうとしては、そのたび、人の運命を感じるんだ。
さあ、その状況でどう生きる?
君はどう生きてきたのかな。
君は自由で無意味な存在として生きてきたのか。だとすればそのままだな。
君は、生産力で規定されず、
君は、無意識には決定されず、
君は、社会の習慣にも決められず、
君は、「夢は他者の語らいだ」などという言説にも分解されない、
そんな存在だったんだよ。
君は君を形づけようとするものに抗い、君の手で君を造ろうとしたかい。
泣くだけしかできないか……。
「その子を逃がしておやりよ、純一」
不意に助手席から、16年まえにもがき苦しみ病死した母が言う。
母さん、あんたは壁を越えたのか?
私が問いかけた時には、もう母はいなかった。
「止めろ」私はスパイクに言った。
何だよ急に。言ってスパイクは車を止めた。
私はドアを開け、少女を外に引きずり出した。
少女はしどけなくへたり込み、声を上げて泣く。
「さあ、逃げていいぞ」
言った私の顔を少女は見る。
少女はへたり込んだままだ。
「逃げないとここで撃ち殺すぞ」
私はホルダーから銃をぬき、少女を狙う。少女はよろめきながらも立ち上がり、私に背をむけ、力なく、空き地の方へ走り出した。空き地の向こうの白い建物周辺に数人の人がいる。
私は待った。少女が離れるのを。充分な距離が出来た時、私はセーフティーを外し、起爆のボタンを押した。
轟音とともに、少女は、花が一気に散るかのように、八方に砕けとんだ。
私は幾ばくか少女の存在した方へ歩み、肉片をひとつ、取り上げた。
それを戦闘服の胸ポケットに入れた。
肉片の血が、服に染み込み、やがて胸に冷たく染みた。
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